【線形空間編】基底を変換する

こんにちは、おぐえもん(@oguemon_com)です。

前回の記事では、線形空間(ベクトル空間)の世界における基底や次元などの概念に関するお話をしました。

今回は、行列を使ってある基底から別の基底を作る方法について扱います。

それでは始めましょ〜!

基底の変換

ベクトル空間VVの中にある基底は、行列のかけ算を利用することで他の基底に変換することができます。

ある基底a1,a2,...,an\boldsymbol{a_1},\boldsymbol{a_2},...,\boldsymbol{a_n}に対して、行ベクトルA=[a1 a2 ... an]A=[\boldsymbol{a_1} \ \boldsymbol{a_2} \ ... \ \boldsymbol{a_n}]を用意すると、 あるnn次正方行列PPを右からかけた「APAP」を計算することで、別の基底を作ることができる のです。

B=APB=APとすると、BBnn列の行ベクトルとなり、BBの成分をB=[b1 b2 ... bn]B=[\boldsymbol{b_1} \ \boldsymbol{b_2} \ ... \ \boldsymbol{b_n}]とすると、b1,b2,...,bn\boldsymbol{b_1},\boldsymbol{b_2},...,\boldsymbol{b_n}は別の基底そのものになります。

つまり、P=[pij]P=[p_{ij}]とすると、新しい基底のjj番目のベクトルbj\boldsymbol{b_j}を次の式(1 次結合ですね)で作れると言うことです。

bj=p1ja1+p2ja2+...+pnjan=i=1npijai\begin{aligned} \boldsymbol{b_j} &= p_{1j}\boldsymbol{a_1} + p_{2j}\boldsymbol{a_2} + ... + p_{nj}\boldsymbol{a_n}\\ &= \sum_{i=1}^{n}p_{ij}\boldsymbol{a_i} \end{aligned}

基底を変換できる行列の条件

基底をまとめた列ベクトルに、あるnn次正方行列PPを右からかけると、基底を変換することができます。

しかし、行列PPはなんでも良いわけではありません。

nn次正方行列であることはもちろんのこと、何より行列PPは正則行列(逆行列をもつ行列)でなければなりません

正則行列じゃないとどうなるのかと言うと、積から手に入るベクトルの組が必ずしも基底であると言えなくなるのです。

以上のことを示すような関係性が証明されています。(証明は授業で聞いてね)

基底の変換と行列の正則の関係

線形空間VVは、nn個のベクトルa1\boldsymbol{a_1}an\boldsymbol{a_n}を基底に持つ。この時、あるnn次正方行列P=[pij]P=[p_{ij}]を用いて、次式のルールでnn個のベクトルb1\boldsymbol{b_1}bn\boldsymbol{b_n}を生成する。

bj=i=1npijai\boldsymbol{b_j} = \sum_{i=1}^{n}p_{ij}\boldsymbol{a_i}

以上の前提において次の関係が成立する。

b1\boldsymbol{b_1}bn\boldsymbol{b_n}VVの基底である」\Leftrightarrow「行列PPは正則である」

成分の変換

あるベクトルをある基底に関する成分で表現しているとき、これを別の基底で表現をすると成分の値にどのような変化が生まれるのか。この答えも「行列の掛け算」が持っています。

まず、線形空間VVの基底a1\boldsymbol{a_1}an\boldsymbol{a_n}に対して行列PPを使った変換を経ることで、別の基底b1\boldsymbol{b_1}bn\boldsymbol{b_n}を作ることができることとします。

そして、線形空間VVの中にある任意のベクトルa\boldsymbol{a}について、基底a1\boldsymbol{a_1}an\boldsymbol{a_n}に関する成分を、

a=(x1,x2,...,xn)\boldsymbol{a} = (x_1,x_2,...,x_n)

として、別の基底b1\boldsymbol{b_1}bn\boldsymbol{b_n}に関する成分を、

a=(y1,y2,...,yn)\boldsymbol{a} = (y_1,y_2,...,y_n)

とします。これはつまり、ベクトルa\boldsymbol{a}は 2 種類の基底を用いて、それぞれ

{a=x1a1+x2a2+...+xnana=y1b1+y2b2+...+ynbn\left\{ \begin{array}{l} \boldsymbol{a} = x_1\boldsymbol{a_1}+x_2\boldsymbol{a_2}+...+x_n\boldsymbol{a_n}\\ \boldsymbol{a} = y_1\boldsymbol{b_1}+y_2\boldsymbol{b_2}+...+y_n\boldsymbol{b_n} \end{array} \right.

の2通りで表すことができると言うことです。

この時、スカラーx1x_1xnx_n縦に並べた列ベクトルをx\boldsymbol{x}、同じくスカラーy1y_1yny_n縦に並べた列ベクトルをy\boldsymbol{y}とすると、シグマを含む複雑な計算を経ることで、x\boldsymbol{x}y\boldsymbol{y}の間に次式のような関係式を導くことができるのです。

変換の式
y=P1x\boldsymbol{y}=P^{-1}\boldsymbol{x}

つまり、ある基底と、これにPPを右からかけて作った別の基底がある時、ある基底に関する成分は、PPの逆行列P1P^{-1}を左からかけることで、別の基底に関する成分に変換できるのです。(実際に計算して確かめよう)

ちなみに、上の式を変換の式と呼び、基底を変換する行列PPのことを変換の行列と呼びます。

基底は横に並べた行ベクトルに対して行列を掛け算しましたが、成分は縦に並べた列ベクトルに対して掛け算します!これ間違えやすいので注意しましょう!(と言っても、行ベクトルに逆行列を左から掛けたら行ベクトルを作れないので計算途中で気づくと思います笑)

おわりに

今回は、線形空間における基底と次元のお話をし、あわせて基底を行列の力で別の基底に変換する方法についても学習しました。

次回の記事では、線形空間の中にある小さな線形空間(部分空間)のお話をしたいと思います!

線形空間の中の線形空間「部分空間」を解説!>>

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