阪大基礎工学部の「女子枠」導入のポイントと情報系学科の現状

こんにちは、おぐえもん(@oguemon_com)です。

ここ最近、大学入試における「女子枠」導入の潮流が訪れ、私の母校である大阪大学基礎工学部も2026年度入試から女子枠を導入することを発表しました。

ポストの引用リプ欄を見ると、たぶん脊髄反射的に書き込んだんだろなっていう短絡的かつ感情的な投稿で埋め尽くされててワロタんですが、今回はこういう方のために、現在の理工系(特に情報系)学科の女性比率の現状や、話題の「女子枠」の詳細とポイントを一次ソースと私の大学時代の実体験に基づいて書いていこうと思います。

女子枠の是非を考えたい人や、大学受験を控えた高校生たちは是非とも読んでいってね!

ニュースの概要

三行まとめ

  • 大阪大学基礎工学部が2026年度入試(2年後の入試)から「女子枠」を導入する。
  • 「女子枠」は学校推薦選抜に設けられて、計20人。
  • 名古屋大学、東京工業大学は導入済。神戸大学、京都大学は今後導入予定。

なんでこんなことになってるの

女子枠の導入はここ数年のトレンドで、国立大学の少なからぬ理工系学部で導入が実施・予定されています。

一気に導入が加速した要因は文部科学省にあります。

文部科学省は、大学入試に関して「大学入学者選抜実施要項」という文書を毎年各大学の学長などに通知しています。ここには適切な大学入試を行うために配慮すべき点がまとめられています。

ここに「令和5年度大学入学者選抜実施要項」(2023年度の入試のやつ)から次の文言が追加されました。

(5) 多様な背景を持った者を対象とする選抜
家庭環境,居住地域,国籍,性別等の要因により進学機会の確保に困難があると認められる者その他各大学において入学者の多様性を確保する観点から対象になると考える者(例えば,理工系分野における女子等)を対象として,入学志願者の努力のプロセス,意欲,目的意識等を重視し,評価・判定する入試方法。
この方法による場合は,こうした選抜の趣旨や方法について社会に対し合理的な説明を行うことや,入学志願者の大学教育を受けるために必要な知識・技能,思考力・判断力・表現力等を適切に評価することに留意すること。
【出典】令和5年度大学入学者選抜実施要項
太字は筆者によるもの

要するに、多様性確保のために理工系分野の女子を対象とする入試方法があることが望ましいという旨を文部科学省が書いています。この文言は令和6年度のものにも引き継がれています。

こうしたポリシーが設けられたことで、結局は文部科学省に従わないといけない各大学は、理工系学部の入試に女子枠を導入することになりました。

ところで、文言には「こうした選抜の趣旨や方法について社会に対し合理的な説明を行うこと」とありますが、女性のみを対象とする入試方法の是非自体に激しい議論があるのに、そこだけ文部科学省で決めておいて、その説明を各大学に委ねてるのが面白いですね。世間の矢面に立たされる各大学がかわいそう!

他の大学の事例

前述しましたが、有名どころの国立大学では次のような例があります。

表には書いてませんが、いずれも総合型選抜・学校推薦型選抜の枠組みで導入しているという共通点があります。両選抜は、一般選抜(前期日程・後期日程)より前に実施されるもので、定員は全体の10%くらい。文部科学省の要求はこの辺の選抜枠で呑んでおいて、定員の約9割を占める大学受験の主戦場である一般選抜(前期日程・後期日程)には手をつけない暗黙の了解でもあるんでしょうか。

情報系学科の現状

さて、女性優遇と叩かれるこの施策がなぜ生まれたのか。建前も本音も理工系に女性が少ないということに尽きます。これはマジで少ないです。

大阪大学の場合

大阪大学を例に挙げてみます。大阪大学の公開データを私の手でグラフ化しました。

【出典】https://www.osaka-u.ac.jp/ja/guide/outline/data/students

大学全体の女性比率は34.4%なのに対して、理学部・工学部・基礎工学部の理工系3学部は軒並み2割を切っていて、基礎工学部に至っては10%にも満たない「9.74%」です。人文系学部は女性の方が多いのと対照的で、どうしてこうなった感があります!このように、基礎工学部の女性比率が極端に低いので、基礎工学部の入試に「女子枠」が設けられるテコ入れが入ったと考えられます。

次に、そんな基礎工学部を構成する4つの学科を見てみます。在籍データは入手できなかったので、入試の結果情報を私の手で集計しました。

【出典】一般選抜:https://www.osaka-u.ac.jp/ja/admissions/faculty/general/testpast
【出典】総合型選抜・学校推薦型選抜:https://www.nyusi.icho.osaka-u.ac.jp/data

基礎工学部の男女比率が異なるのは、大学の男女比が学部全体で、この男女比が2023年度入学生のみだからです。

このように、同じ理工系の中でも男女比に大きな違いがあります。私の主観ですが、理工系の中でも化学系・生物系はなぜか女性が多いです。一方で電子物理系や、情報系はなぜか女性がめっちゃ少ないです。システム科学科は、情報系だけでなく生物系なども扱っているからか比較的女性が多いです。基礎工学部はいつも「化応>シス科>情科≒電物」の順序で、電子物理科学科と情報科学科が最下位を競い合う構図が確立しています。

まとめると、情報系はなぜか女性がめっちゃ少ないのです!! 理由の考察は省きますが、これはれっきとした事実です。

私は情報科学科の出身でしたが、私の学年は85人前後のうち女性が2人しかいませんでした(女性比率2.4%)。私は高校受験から一貫して「共学校」を大前提において進路を選んできたのに、これでは実質男子校やないかと愕然したことを今も覚えています。

ちなみに、それでも男性用トイレと女性用トイレの数は当然一緒なので、情報科学科の女性トイレはめっちゃガラガラです!!

他大学の状況

情報系学科の女性比率が小さいのは大阪大学だけではありません。入学者の男女数が分かる大学から主なものをピックアップして、情報系学科の男女比を私の手で集計しました。地域・国公立私立問わず満遍なく拾いたかったのですが、入試形式がシンプルな国公立大学のみに絞りましたすんません。

【出典】はこだて未来大学:https://www.fun.ac.jp/result-exam
【出典】東京工業大学:https://admissions.titech.ac.jp/admissions/admission/admission/data
【出典】名古屋大学:https://www.nagoya-u.ac.jp/admissions/exam/data/exam-data/
【出典】京都大学(特色入試):https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/admissions/tokusyoku/statistics
【出典】京都大学(一般入試):https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/admissions/undergrad/jisshijokyo
【出典】九州大学:https://www.kyushu-u.ac.jp/ja/admission/faculty/conditions/
【出典】お茶の水女子大学:https://www.ao.ocha.ac.jp/statistics/

ちなみに、東北大は調べた限り一般入試の統計情報に性別を掲載していませんでした

このように、女子大以外の大学の女性比率は軒並み低水準なのが見て取れると思います。お茶の水女子大は当然ながら100%の女性比率を誇りますが、情報科学科の入学定員は36人(2024年度入学者選抜要項より)で、他大学を補えるほどの数はありません。

女性ばかりが試験に落ちているのか?

総務省統計局によると、2023年10月時点の日本の18歳人口は、男性55.9万人/女性53.0万人で女性比率は約48.7%。それなのに情報系学科の女性比率は1桁台がザラである現実を前にすると、入試で女性がフィルタリングされているかのような錯覚に陥りそうになりますが、当然ながらそんなことはありません。

過去3年間の一般入試の結果を私の手で集計したのが次の画像です。

【出典】https://www.osaka-u.ac.jp/ja/admissions/faculty/general/testpast

合格者の女性比率は受験者の女性比率よりも1ポイント程度下がる傾向こそあるものの、グラフを見た感じではそれほどの差はありません。数字は人数ですが、どれも女性比率5〜8%あたりです。

ほぼ完全な実力勝負の一般入試において、男性も女性も受かりやすさはほぼ同じ。そして、受験者数の女性比率の時点で1桁台を呑気にウロウロしている。要するに受験の段階から情報系学科は女性に人気がないという誰もが予想できる結論がデータにおいても示されました。

実態のまとめ

情報系の学科は理工系の中でも極端に女性比率が低く、この傾向は調べた限り全国の大学で同じように見られます。

そして、情報系学科の女性比率は入学者(合格者)はおろか、少なくとも大阪では受験者数の時点で惨憺たる低水準にあり、シンプルに情報系学科の女性人気が低いと言えます。他大学のことは調べてませんが、多分同じだと思います。

そもそも人気が低いのに、女子学生を増やせという社会的な圧力(=文部科学省の圧力?)を受けた結果やらざるを得なくなった姑息な施策が今回の「女子枠」導入の潮流の経緯と思われます。

「女子枠」の詳細

長い前置きでしたが、ここから大阪大学で導入される「女子枠」とやらがどんなものかを見ていきます!

大阪大学基礎工学部の「女子枠」の概要

まず、次のリンクが公式発表の内容です。ニュースを見たほとんどの人はここまで辿り着いてないで多分。

リンク先に行くと、具体的な内容だけでなく、大学・学部からのメッセージがPDFファイルでそれぞれ掲載されています。配慮を感じますね。

具体的な内容は「令和8年度からの基礎工学部における入学者選抜方法の変更について」というPDFファイルにあります。

簡単にいうと、2026年度入試から次のような変更が加わります。

  1. 一般選抜の定員を学部全体で20名減らして、その代わり学校推薦型選抜の「女性枠」を20名分設ける。
  2. 女性枠への出願要件は、戸籍上の性別が女性である者。
  3. 逆に「学校推薦型選抜」に出願した戸籍上の女性は、従来からある一般枠と新設される女性枠の両方に出願したことになる
  4. 「学校推薦型選抜」に応募できるのは、1校あたり男女各4名までかつ合計6名まで。(男子校/女子校は4名まで)
  5. 「学校推薦型選抜」は従来通り第1次選考/第2次選考を経て合格判定を出す。
    • 第1次選考は、一般枠/女性枠の区別なく判定。
    • 第2次選考は、女性枠の合格者を決めてから、残りの人(女性枠で一旦落ちた人を含む)で判定する。
  6. アホすぎたら女性枠の定員内でも落とす。

ちなみに各種定員の変化は次のとおり。

一般選抜(前期日程)(括弧内は前年比)の場合、

学科202420252026年度〜
電子物理科学科90名94名(+4)90名(-4)
化学応用科学科75名75名71名(-4)
システム科学科151名156名(+5)148名(-8)
情報科学科74名92名(+18)88名(-4)

学校推薦型選抜の場合、

学科202420252026年度〜
一般枠女性枠
電子物理科学科9名9名9名4名
化学応用科学科9名9名9名4名
システム科学科18名18名18名8名
情報科学科9名9名9名4名

これらの情報から、留意すべきポイントがいくつかあります。

【ポイント1】過去比較では男子が必ずしも損しない

化学応用科学科以外の3学科は、2025年度に定員を増員しています。電子物理科学科は女子枠の数と同じ4名、情報科学科に至っては大幅増の18名です!

なので、これらの学科は今在学してる先輩たちと比べたら同程度か、受かりやすくなる(はず)です。ただし、増枠初年の2025年と比べると枠が減ったことには変わりありません…

一方で、化学応用科学科は増員なし、システム科学科は女子枠8名に及ばないたった5名の増員なので、増員分以上が女子枠に持って行かれて、結果として男性は損をする形になります。

てか、もともと学部内女性比率トップの化学応用科学科が過去比較で男性不利になり、一方で最下位を毎年競い合ってる電子物理科学科と情報科学科がそうでもないのおかしくね??

【ポイント2】第1次選考で女子枠勢が全滅する可能性がある

前述のとおり、基礎工学部の学校推薦選抜は2段階の選抜を経て最終的な合格者が決まります。

令和6年度 募集概要 / 基礎工学部によると、次のような構成になっています。もちろん2026年度入試はこうであると限りません。

  • 第1次選考:大学入学共通テストの成績と提出書類による選考(2月上旬)
  • 第2次選考第1次選考合格者に対して行う、口頭試問による選考(2月中旬)

要は、共通テストの点数と提出書類の出来で足切りがあるということです。

ここで、「令和8年度からの基礎工学部における入学者選抜方法の変更について」には「第1次選考の合格者判定は、一般枠、女性枠に区分せず行います。」と明記されています。「女性枠 = 女性出願者」なので、第1次選考は男女関係なく評価しますということですね。

つまり、女子枠が効いてくる第2次選考を受けるまでに女子枠の受験者が募集人員以下になる可能性があります

次の表は、2024年度の学校推薦型選抜における女性の受験者数〜合格者数を抜粋したものです。

学科受験者数第1次選考合格者数第2次選考合格者数
電子物理科学科311
化学応用科学科1585
システム科学科2294
情報科学科400

【出典】令和6年度 総合型選抜・学校推薦型選抜 実施状況

なんと、女性人気が地を這う電子物理科学科と情報科学科は、第1次選考合格者数の時点で将来の女子枠の数を大きく下回っています。情報科学科に至っては全滅しています。ちなみに、2023年度は電子物理科学科でそもそも女性受験者がゼロでした

少人数を対象とする選考なので、年による人数の振れ幅が大きいことが考えられるものの、現状がこんな感じならば、結局第1次選考でゴッソリ落とされるので、第1次選考でも女性を優遇しない限り女子枠が機能するとは考えにくいです。

そもそも、第1次選考で従来と同じようにゴッソリ落とされるのに、「女子枠あるじゃん受けよ♪」と受験に臨むインセンティブがどれだけあるのか。あまり女性に贔屓すると非難を浴びる上、学生の質にも影響が出かねないからこのルールに着地したんだろうなというのは感じ取れる一方、世間の反応を覚悟して女子枠の導入を決断した割には中途半端な感が否めません。

【ポイント3】そもそもそんなに枠がない

なんやかんや書きましたが、そもそも各学科4名ずつ(システム科学科は8名)って、女子枠導入の決断をした割には人数が少ない印象です。

情報科学科でいうと、2026年度の定員(学校推薦型選抜 + 一般選抜)が101名で、そのうち女子枠が4名なので比率でいうと4%弱。女子枠全員が新しく合格したところで、女性比率は7%から11%になるだけで、それでも10人のうち9人が男性という状況です。

ガチでジェンダーバランスのとれた学びの場を提供するには、情報科学科でいえば40人くらいの女性を追加で確保しないといけないくらい理想と現実の乖離は著しくなっています。

「やってる感」の出る最低ラインを攻めたのかなとか、学校推薦型選抜の例年の女性応募者の学力感をみて人員を設定したのかなって勘繰ってしまいます。

おわり

近頃話題の「女子枠」について、大阪大学基礎工学部(情報科学科)の例を用いて、その経緯や仕組みを見ていきました。

全国的に理工系(特に電物・情報系)の女性人気がすこぶる悪くて、女性人気を高めるための間接的な方法を講じるだけだと埒が明かないから、文部科学省の要請のもとで手っ取り早く成果が得られる「女子枠」を導入してなんとかしようとしてるような流れだと捉えました。

「女子枠」の導入が入試機会の平等に反するという学内外からの批判を最小限に抑えるために、できるだけ既存の受験システムへの影響がないように配慮に配慮を重ねた結果、ほんまに効果あんの??って仕組みになっているのが現状ですが、最初の足がかりだから慎重にやっていて、今後世間が慣れてきたら当たり前のように女子枠が増員される未来があっても(是非はさておき)おかしくなさそうですね。

情報系出身の私としては、情報系の女性人気が悪い理由が全く分からなくて(IT技術者って高給で人気やし、みんなスマホとかでITの驚異に触れてるのに…)、対策次第ではどうにでもなるんじゃないかと思ってるので、現状が変わるように随時情報発信をしていこうと思います。

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