【固有値編】フロベニウスの定理を計算例付きで徹底解説

こんにちは、おぐえもん(@oguemon_com)です。

前回の記事では、ケーリー・ハミルトンの定理について、勘違いしやすいポイントを交えて解説しました。

今回は、ケーリー・ハミルトンの定理と同じく、三角化の概念を用いて成立の理由を追及することができるフロベニウスの定理を解説します!

フロベニウスの定理とは?

ある多項式に行列を代入してできた行列の固有値は、行列の固有値を同じ多項式に代入した時に得られる値だよって旨の定理です。

フロベニウスの定理

nn次正方行列AAは、λ1,λ2,,λn\lambda_1,\lambda_2,\cdots,\lambda_nを固有値に持つとする。

行列XXの多項式

f(X)=a0Xn+a1Xn1++an1X+anEf(X)=a_0X^n+a_1X^{n-1}+\cdots+a_{n-1}X+a_nE

に、AAを代入して得られる行列f(A)f(A)の固有値は、

f(λ1), f(λ2), , f(λn)f(\lambda_1), \ f(\lambda_2), \ \cdots, \ f(\lambda_n)

である。

定理が成り立つ理由

この定理は、三角化を利用することで成り立つ理由を確かめることができます。

まず、任意の正方行列は三角化できます。つまり次の式が成り立つ適当な行列PPを選ぶことができます。

P1AP=[λ1a12a1n0λ2a2n00λn]P^{-1}AP = \left[ \begin{array}{cccc} \lambda_{1} & a_{12} & \ldots & a_{1n} \\ 0 & \lambda_{2} & \ldots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & 0 & \ldots & \lambda_{n} \end{array} \right]

ここで、λ1\lambda_{1}λn\lambda_{n}AAの固有値です。

さて、次は、P1f(A)PP^{-1}f(A)Pを変形します。

P1f(A)P=P1(a0An+a1An1++anE)P=a0P1AnP+a1P1An1P++anE=a0(P1AP)n+a1(P1AP)n1++anE=f(P1AP)\begin{aligned} P^{-1}f(A)P &= P^{-1}(a_0A^n+a_1A^{n-1}+\cdots+a_nE)P \\ &= a_0P^{-1}A^nP+a_1P^{-1}A^{n-1}P+\cdots+a_nE \\ &= a_0(P^{-1}AP)^n+a_1(P^{-1}AP)^{n-1}+\cdots+a_nE \\ &= f(P^{-1}AP) \end{aligned}

2行目から3行目にかけて、P1AnP=(P1AP)nP^{-1}A^nP=(P^{-1}AP)^nを用いた変形がなされています。この等式は次のようなイメージで成立を理解できると思います。

P1A3P=P1AAAP=P1APP1APP1AP=(P1AP)(P1AP)(P1AP)=(P1AP)3\begin{aligned} P^{-1}A^3P &= P^{-1}AAAP \\ &= P^{-1}A\underline{PP^{-1}}A\underline{PP^{-1}}AP \\ &= (P^{-1}AP)(P^{-1}AP)(P^{-1}AP) \\ &= (P^{-1}AP)^3 \end{aligned}

ところで、三角行列をnn乗したとき、その対角成分は、元の成分のnn乗となります(もちろん右上の成分は全然違う値になります)。実際に計算すると成り立つことがわかります。

[λ1a12a1n0λ2a2n00λn]n=[λ1nb12b1n0λ2nb2n00λnn]\left[ \begin{array}{cccc} \underline{\lambda_{1}} & a_{12} & \ldots & a_{1n} \\ 0 & \underline{\lambda_{2}} & \ldots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & 0 & \ldots & \underline{\lambda_{n}} \end{array} \right]^n = \left[ \begin{array}{cccc} \underline{\lambda_{1}^n} & b_{12} & \ldots & b_{1n} \\ 0 & \underline{\lambda_{2}^n} & \ldots & b_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & 0 & \ldots & \underline{\lambda_{n}^n} \end{array} \right]

多項式は、行列の累乗にスカラー倍したものを色々足し合わせたものにすぎません。ですので、ある三角行列WWの対角成分の 1 つをwiw_iとした時、WWを多項式に代入してできた行列f(W)f(W)における同位置の対角成分はf(wi)f(w_i)となります

P1APP^{-1}APは、対角成分として各固有値λ1\lambda_{1}λn\lambda_{n}をもつ三角行列です。ですので、f(P1AP)f(P^{-1}AP)の対角成分は、多項式f(X)f(X)に各固有値を代入したf(λ1)f(\lambda_{1})f(λn)f(\lambda_{n})で構成されることがいえます。

f(P1AP)=[f(λ1)c12c1n0f(λ2)c2n00f(λn)]f(P^{-1}AP) = \left[ \begin{array}{cccc} f(\lambda_{1}) & c_{12} & \ldots & c_{1n} \\ 0 & f(\lambda_{2}) & \ldots & c_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & 0 & \ldots & f(\lambda_{n}) \end{array} \right]

ところで、上で導いた等式P1f(A)P=f(P1AP)P^{-1}f(A)P=f(P^{-1}AP)から、P1f(A)PP^{-1}f(A)Pが三角行列であることがいえます。つまり、PPを用いて行列f(A)f(A)を三角化したことに他なりません三角化に関する記事の中で扱いましたが、三角化により生み出した三角行列の対角成分は元の行列の固有値です。

ゆえに、f(A)f(A)の固有値は、f(λ1)f(\lambda_1)f(λn)f(\lambda_n)であることが言えました。

一緒に例題を計算しよう!

簡単な行列を計算してフロベニウスの定理が実際に成立することを確かめてみましょう。

例として、2 次正方行列AAと、多項式f(X)f(X)を次のように定めました。

A=[1214]A = \left[ \begin{array}{cc} 1 & 2 \\ -1 & 4 \end{array} \right] f(X)=X2+3XEf(X) = X^2 + 3X - E

ちなみに、AAの固有値は、「2」と「3」です!(一応理由 ↓)

AtE=(1t)(4t)2(1)=t25t+6=(t2)(t3)\begin{aligned} |A-tE| &= (1-t)(4-t)-2*(-1) \\ &= t^2 - 5t + 6 \\ &= (t-2)(t-3) \end{aligned}

1. 多項式に行列を入れてみる

多項式に行列AAを入れてできた行列f(A)f(A)を計算しましょう。

下準備としてA2A^2を計算しておきました。

A2=[110514]A^2 = \left[ \begin{array}{cc} -1 & 10 \\ -5 & 14 \end{array} \right]

それではf(A)f(A)を計算しましょう。

f(A)=A2+3AE=[110514]+3[1214][1001]=[1+31110+3205+3(1)+014+341]=[116825]\begin{aligned} f(A) &= A^2 + 3A - E \\ &= \left[ \begin{array}{cc} -1 & 10 \\ -5 & 14 \end{array} \right] + 3\left[ \begin{array}{cc} 1 & 2 \\ -1 & 4 \end{array} \right] - \left[ \begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{array} \right] \\ &= \left[ \begin{array}{cc} -1+3*1-1 & 10+3*2-0 \\ -5+3*(-1)+0 & 14+3*4-1 \end{array} \right] \\ &= \left[ \begin{array}{cc} 1 & 16 \\ -8 & 25 \end{array} \right] \end{aligned}

これで、f(A)f(A)が求まりました。

2. 固有値を比較する

行列f(A)f(A)の固有値を求めましょう。

f(A)tE=(1t)(25t)16(8)=t226t+153=(t9)(t17)\begin{aligned} |f(A)-tE| &= (1-t)(25-t)-16*(-8) \\ &= t^2 - 26t + 153 \\ &= (t-9)(t-17) \end{aligned}

よって、行列f(A)f(A)の固有値は「9」と「17」です

ところで、AAの固有値「2」と「3」をそれぞれ多項式f(X)f(X)に入れたらどうなるのでしょうか。スカラーは 1 次の行列とみることができます。f(2)f(2)f(3)f(3)はそれぞれ次のようになります。

f(2)=22+321=9f(3)=32+331=17\begin{aligned} f(2) &= 2^2 + 3*2 - 1 = \underline{9} \\ f(3) &= 3^2 + 3*3 - 1 = \underline{17} \end{aligned}

まあ不思議、この組み合わせは行列f(A)f(A)の固有値と一致するではありませんか。

以上から、f(A)f(A)の固有値が、行列AAの固有値を多項式f(X)f(X)に通した時の値であることが分かりました。

おわりに

今回はフロベニウスの定理を解説しました!

これでひとまず【固有値編】はおしまいです。お疲れ様でした!

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