【線形空間編】ベクトルの内積と直交

こんにちは、おぐえもん(@oguemon_com)です。

前回の記事では、線形空間の中にある小さな線形空間、部分空間について解説しました。

今回は少し話が変わりますが、線形空間における内積などの話をしたいと思います。今回の記事は、スカラー倍に実数のみを用いる「実線形空間」が前提なので注意してくださいね!

内積のある線形空間

まず、内積というものは全ての線形空間に用意されているわけではありません。内積は人から与えられるものじゃなくて自分で作るするもんなんだよ!

線形空間の中でも、内積が定義されているものを、計量線形空間と呼びます。これから先は計量線形空間を前提において線形空間の話をします。

ベクトルの内積と大きさ

ベクトルの内積

内積は自分で定義するものなのですが、ある演算を「内積」と認めるためにはいくつかの条件をクリアしなければなりません。その条件についてここでは扱います。

まず、内積は、実線形空間VVにおいて定義されるものであり、VVの中の2 つのベクトルを与えると 1 つの実数を定めることができるのが前提です。その中で、定まった結果に一定の性質が存在するものが初めて内積となるわけです。

ベクトルの内積

VVは実線形空間であり、VVの中の任意のベクトルa\boldsymbol{a}b\boldsymbol{b}に対して、実数(a,b)(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})が定まる上に、次の 4 条件を全て満たすとき、(a,b)(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})a\boldsymbol{a}b\boldsymbol{b}の内積と呼ぶ。

  1. 順序を入れ替えても結果は変わらない。 (a,b)=(b,a)(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})=(\boldsymbol{b},\boldsymbol{a})
  2. ベクトルの分配法則がある。 (a1+a2,b)=(a1,b)+(a2,b)(\boldsymbol{a_1}+\boldsymbol{a_2},\boldsymbol{b})=(\boldsymbol{a_1},\boldsymbol{b})+(\boldsymbol{a_2},\boldsymbol{b})
  3. スカラー倍の計算順序を問わない。 (λa,b)=λ(a,b)(\lambda\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})=\lambda(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})
  4. 同じベクトルを与えると負にならない。(等号成立はa=o\boldsymbol{a}=\boldsymbol{o}のときのみ) (a,a)0(\boldsymbol{a},\boldsymbol{a}) \geq 0

今までも内積を扱ってきましたし、ドヤ顔で内積のルールを教えてきました。しかし、今までの内積はあくまで上に掲げた「線形空間の内積」の条件を満たす1計算ルールに過ぎません。本来、内積の計算ルールなんて上の条件さえ満たせばなんでも良いのです。

ベクトルの大きさ

ベクトルの大きさは、ベクトルの内積から定義されます。

ベクトルの大きさ(長さ)

計量ベクトル空間の任意のベクトルa\boldsymbol{a}に対して、

(a,a)\sqrt{(\boldsymbol{a},\boldsymbol{a})}

をベクトルa\boldsymbol{a}大きさ(または長さ) と呼び、a|\boldsymbol{a}|と表記する。

高校などで習った空間ベクトルの単元では、内積は 2 つのベクトルの大きさとなす角のかけ算って習いましたが、本来は内積があって初めて大きさが分かるのです。ないせきが先、大きさが後(みつを並感)

ちなみに、ベクトルの大きさには次に掲げる性質があります。

ベクトルの大きさの性質
  1. a0|\boldsymbol{a}| \geq 0 (等号成立はa=o\boldsymbol{a}=\boldsymbol{o}のときに限る)
  2. λa=λa|\lambda\boldsymbol{a}|=|\lambda||\boldsymbol{a}| (ただし、λ\lambdaは任意の実数)
  3. (a,b)ab|(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})| \leq |\boldsymbol{a}||\boldsymbol{b}|コーシー=シュワルツの不等式と呼ぶ)
  4. a+ba+b|\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b}| \leq |\boldsymbol{a}|+|\boldsymbol{b}|三角不等式と呼ぶ)

内積の例

例1

nn個の実数を 1 列に並べた「nn次元数線形空間」の中にある 2 つのベクトルa=(a1,a2,...,an)\boldsymbol{a}=(a_1,a_2,...,a_n)b=(b1,b2,...,bn)\boldsymbol{b}=(b_1,b_2,...,b_n)について、次式の計算ルールを定めると、これは内積の条件を満たすので内積と言えます(実際に確かめてみよう!)。

(a,b)=a1b1+a2b2+...+anbn(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})=a_1b_1+a_2b_2+...+a_nb_n

この形、空間ベクトルの成分を使った内積の式とほぼ同じですよね?この内積は空間ベクトルにおける幾何学的な考察から自然に得られるルールですので、nn次元数線形空間上で定義できる内積の中でも、特に自然な内積と呼ばれ、超メジャーな立ち位置にいます。

ちなみに、a=a12+a22+...+an2|\boldsymbol{a}|=\sqrt{{a_1}^2+{a_2}^2+...+{a_n}^2}となります。

例2

区間[1,1][-1,1]で連続な関数全体は線形空間です。ここで、2 つの関数ffggに対して次式の計算ルールを定めると、これは内積の条件を満たすので内積と言えます。

(f,g)=11f(x)g(x)dx(f,g)=\int_{-1}^1 f(x)g(x) dx

このとき、大きさf|f|は次式で表されます。

f=11(f(x))2dx|f|=\sqrt{\int_{-1}^1 (f(x))^2 dx}

ある領域内で連続な関数全体が線形空間となること、そして関数同士のかけ算の積分が内積になることは高校までのベクトル観では信じにくいですよね?しかし、それぞれ線形空間・内積の条件を満たしているので、しっかり線形空間・内積なのです。

なす角と直交

2ベクトルのなす角

ベクトルの大きさの性質で取り上げたコーシー=シュワルツの不等式から内積の絶対値を外して式を変形することで、線形空間VV内のベクトルa\boldsymbol{a}b\boldsymbol{b}がともに零ベクトルでない場合において、次の不等式が成り立つことがわかります。

1(a,b)ab1-1 \leq \frac{(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})}{|\boldsymbol{a}||\boldsymbol{b}|} \leq 1

範囲が、-1 から 1 までということは、「cosθ\cos \theta」を引っ張ってくることで、上式の値と、θ\thetaの値を0θπ0 \leq \theta \leq \piの範囲で一対一対応させることができます。ここで対応するθ\thetaのことをa\boldsymbol{a},b\boldsymbol{b}なす角として定義します。

2ベクトルのなす角
cosθ=(a,b)ab\cos\theta = \frac{(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})}{|\boldsymbol{a}||\boldsymbol{b}|}

を満たすθ\theta0θπ0 \leq \theta \leq \pi)をa\boldsymbol{a},b\boldsymbol{b}なす角とする。

高校で習ったベクトルでは、長さとなす角ありきで内積が導かれてましたが、線形空間の世界では、内積ありきで長さが導かれ、さらに内積と長さがあってはじめてなす角を求めることができるのです。

ちなみに、2 ベクトルのどちらか一方が零ベクトルならば、なす角は定義しないこととします。

直交

内積が 0 だったら、2 ベクトルは互いに直交するといいます。ここで、注意して欲しいのは、2 ベクトルが直交するとき、必ずしもベクトル同士が直角に交わっているとは限らないということです。その例が、零ベクトルを含む 2 ベクトルです。両者は、なす角こそ定義されませんが、内積が必ずゼロになるので互いに直交します。

2ベクトルの直交

線形空間VV内にある 2 つのベクトルa\boldsymbol{a}b\boldsymbol{b}が次式を満たすとき、a\boldsymbol{a}b\boldsymbol{b}は互いに直交するという。

(a,b)=0(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})=0

また、線形空間VVの中にあるrr個のベクトルa1\boldsymbol{a_1}ar\boldsymbol{a_r}について、どんな異なる 2 ベクトルを選んでも互いに直交するならば、a1\boldsymbol{a_1}ar\boldsymbol{a_r}直交系であるといいます。

おわりに

今回は、2 つのベクトルを使った演算「内積」について、そのルールを再定義しました。

次回の記事では、「正規直交基底」と呼ばれる特別な基底について解説します。

正規直交基底と直交行列>>

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