こんにちは、おぐえもん(@oguemon_com)です。
前回の記事では、固有値と固有ベクトルとは何なのかを基礎から解説しました。今回は、固有値と固有ベクトルを手っ取り早く求める方法を扱います!
固有値問題とは
ある正方行列\(A\)について、\(A\boldsymbol{x}=\lambda\boldsymbol{x}\)を満たすような\(\lambda\)と\(\boldsymbol{x}\)の組み合わせを求める問題、言い換えると、\(A\)の固有値とそれに対する固有ベクトルを求める問題のことを固有値問題と呼びます。
固有値と固有ベクトルは行列や線形変換における重要な指標です。しかし、これをノーヒントで探すのは至難の業(というか無理ゲー)。そこで、賢い先人たちは知恵を絞って固有値と固有ベクトルを手取り早く探す(=固有値問題を解く)方法を編み出しました。
固有値と固有ベクトルの求め方
固有値問題を解く方法の1つが、固有方程式(特性方程式とも呼びます)というものを解く方法です。解き方は次の通り。
固有ベクトルは、1つの固有値に対して無数に現れます(ある解のスカラー倍もまた解となるから)。固有値ベクトルを求める問題に遭遇した時は、特別な指示がない限り、任意変数をスカラー倍した網羅的な解答を記述しましょう!どういうことなのか、その具体例は後述します。
固有方程式で固有値がわかるワケ
突然「固有方程式」なんてものを出しました。なぜこれで固有値が出せるのかを説明します。
まず、ある固有値\(\lambda\)に対する固有ベクトルを求める問題は、
を満たす「\(\boldsymbol{x} \ (\neq \boldsymbol{o})\)」を求める問題に帰着します。
この式は、①両辺の左から単位行列\(E\)を掛けて、②右辺を左辺へ移項することで、次の形に変形できます。(中辺は、左辺から\(\boldsymbol{x}\)を括りました)
つまり、ある固有値\(\lambda\)に対する固有ベクトルを求める問題は、連立方程式\((A-\lambda E)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{o}\)の「非自明解(零ベクトル以外の解)」を求めること、とも言い換えられます。
そもそも固有ベクトルが存在するためには、この連立方程式が非自明解を持たなければなりません(自明解=零ベクトルは固有ベクトルとして扱われないから)。そのための条件は、行列\((A-\lambda E)\)の行列式が0であること、つまり逆行列を持たないことです。もし逆行列を持っていたら、連立方程式の左から逆行列を掛けることで\(\boldsymbol{x}=\boldsymbol{o}\)が導かれちゃいます。これでは零ベクトル以外の解がありません。
逆に言えば、「\(|A-\lambda E|=0\)」を満たす\(\lambda\)さえ選べば、\(A\boldsymbol{x} = \lambda \boldsymbol{x}\)は非自明解を持ちます。そして、その非自明解を導いたとき、\(\lambda\)は固有値、非自明解\(\boldsymbol{x}\)は\(\lambda\)に対する固有ベクトルそのものになるのです。
実際に固有値問題を解いてみよう!
固有値問題を解く要領を掴むため、簡単な行列の固有値と固有ベクトルを実際に求めてみましょう。
ここでは、前回の記事でも登場した2次元の正方行列\(A\)を使用します。
Step1. 固有方程式を解く
まずは、固有方程式の左辺(固有多項式と呼びます)を整理しましょう。
|A-\lambda E| &=& \left|\left( \begin{array}{cc} 5 & 3 \\ 4 & 9 \end{array} \right)-\lambda \left( \begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{array} \right)\right| \\
&=&\left|
\begin{array}{cc}
5-\lambda & 3 \\
4 & 9-\lambda
\end{array}
\right| \\
&=&(5-\lambda)(9-\lambda)-3*4 \\
&=&(\lambda -3)(\lambda -11)
\end{eqnarray}
よって、固有方程式は次のような式となります。
この解は\(\lambda=3,11\)です。よって、\(A\)の固有値は「3」と「11」です。
Step2. 各固有値に対する固有ベクトルを導く
次は、求めた固有値に対する固有ベクトルを求めましょう。
- 固有値「3」に対する固有ベクトル
- 連立方程式\((A-3E)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{o}\)の非自明解を求めましょう。
これはつまり、次の式に相当します。$$\left( \begin{array}{cc} 2 & 3 \\ 4 & 6 \end{array} \right)\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}0 \\ 0\end{array}\right)$$これの非自明解、つまり固有ベクトルは、以下の通りです。
$$\boldsymbol{x}=k\left(\begin{array}{c}-3 \\ 2\end{array}\right)$$※ ただし、\(k\)は0以外の任意の実数です。ちなみに、このベクトルは前回の記事で固有ベクトルとして与えたものです
- 固有値「11」に対する固有ベクトル
- 連立方程式\((A-11E)\boldsymbol{x}=\boldsymbol{o}\)の非自明解を求めましょう。
これはつまり、次の式に相当します。$$\left( \begin{array}{cc} -6 & 3 \\ 4 & -2 \end{array} \right)\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}0 \\ 0\end{array}\right)$$これの非自明解、つまり固有ベクトルは、以下の通りです。
$$\boldsymbol{x}=k\left(\begin{array}{c}1 \\ 2\end{array}\right)$$※ただし、\(k\)は0以外の任意の実数です。
先述した通り、固有ベクトルの解は、基本的に0以外の任意の実数倍の形となり、同じ向きの固有ベクトルが無数に生まれることになります。ちなみに、行列によっては、1つの固有値に対する固有ベクトルが、ある複数のベクトルの1次結合の形になることもあります。
おわりに
今回は、固有値問題を解くための方法について説明しました!
次回の記事では、固有方程式の左辺である「固有多項式」を用いて、行列の対角成分の総和がもつ性質を明らかにしていきます。