重要文化財を守れば隣に超デカいビルを建てられる!?丸の内摩天楼の裏側(後編)

こんにちは、おぐえもん(@oguemon_com)です。

前回の記事では、日本屈指のビジネス街・丸の内の超高層ビル群が東京駅の力を借りて法律の原則を大きく超えるサイズのビルを建てた話を書きました。

丸の内に超高層ビルが並ぶのは東京駅が3階建てだから!?丸の内摩天楼の裏側(前編)
丸の内に超高層ビルが並ぶのは東京駅が3階建てだから!?丸の内摩天楼の裏側(前編)
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今回の記事を読む前に↑を読むことを超おすすめします!

例えば、驚異の約1756%という日本一の容積率(敷地面積に対する延べ床面積の割合)を誇る新丸の内ビルディングは、法律が定める当初の基準である1300%の上限(この時点で既に超デカい)を突破するために、東京駅丸の内駅舎が持て余す容積を購入して上限を365%アップさせました。しかし、これだけでは容積率上限が1665%に留まり、まだ実際の容積率に100%近く及びません。


↑丸の内の超高層ビルたち(右が新丸の内ビルディング)

この記事では、新丸の内ビルディングをはじめとする丸の内の超高層ビルがどのようにして容積率上限をアップさせていったのかを書いていきます。

容積率って何?

詳しくはこちらを見てください!

丸の内に超高層ビルが並ぶのは東京駅が3階建てだから!?丸の内摩天楼の裏側(前編)
丸の内に超高層ビルが並ぶのは東京駅が3階建てだから!?丸の内摩天楼の裏側(前編)
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読むのが面倒な人のために説明すると、容積率とは、ある敷地の面積に対する、敷地上の建物の延べ床面積の割合です。

例えば、100㎡の土地に、1フロア80㎡の面積を持つ5階建ての建物がある場合、その容積率は、「80㎡×5階÷100㎡ = 400%」になります。延べ床面積の算出ルールは複雑なので、実際はもっといろんな事情を考慮する必要があります。

容積率を際限なくすると、周辺の道路状況に関わらずキャパが大きな建物が次々とできてしまい周辺が人で溢れかえるおそれがあるので、エリアごとに上限が定められています。

例えば閑静な住宅街(第一種低層住居専用地域など)で上限200%程度ですが、丸の内エリアの容積率上限は1300%です。なので、既にめっちゃデカいです。

丸の内の超高層ビルが圧倒的な容積率上限を手に入れた方法

丸の内の容積率上限は既にめっちゃ大きいのですが、それでも多くの超高層ビルは、あれやこれやと工夫して1300%を超える容積率上限を手に入れて、その上限ギリギリのビルを建てています。(リンク先は出典)

名称容積率上限
新丸の内ビルディング1755.90%1760%
JPタワー1629.99%1630%
丸の内パークビルディング1563.11%1564.73%
明治安田生命ビル1488.54%1500%
丸の内ビルディング1436.23%1437%

市街地の整備を改善したら容積率上限アップの可能性がある「特定街区」制度

前述の通り、新丸の内ビルディングは、東京駅丸の内駅舎から「空中権」を購入して容積率が365%もアップしました。しかし、それでも1300 + 365 = 1665%で、実際の容積率上限1760%には及びません。

また、丸の内ビルディングは前述の通り容積率上限が1437%に緩和されていますが、丸の内ビルディングは東京駅から空中権を購入していません。

これらの容積率上限緩和には「特定街区」という制度が絡んでいます。

特定街区とは、ある街区において、既定の容積率などの一部制限を適用せず、都市計画で別に制限を定める制度です。つまり、一部の建築ルールの個別適用って感じです。

東京都における特定街区のプロジェクト一覧は、東京都都市整備局のページで見ることができます。

新丸の内ビルディングのプロジェクトでは、容積率が1760%に指定されている(緩和されている)ことが確認できますね。

丸の内がある千代田区のページには次のような記述があり、どうやら市街地の整備を頑張ると容積率上限アップの恩恵が受けられるようです。

有効な空地の確保など、市街地の整備改善の程度に応じて容積率の割増しが受けられます。
出典:https://www.city.chiyoda.lg.jp/koho/machizukuri/toshi/yotochiiki/tokute.html

そして、新丸の内ビルディング竣工当時に三菱地所が発表したプレスリリースには、ビルの建設と同時に周辺の地下空間を整備したことが書かれています。こうした貢献が容積率アップなどに実を結んでいることが考えられます。

東京都と共に東京駅前地下広場(千代田歩行者専用道第5号線)の整備を行ったことにより、ターミナルにおける地下空間が形成され、エリア全体の利便性が向上します。
出典:https://prtimes.jp/data/corp/0/015fd511c0879edc6364961b36582863.pdf


↑三菱地所が整備した地下広場

よって、新丸の内ビルディングは、東京駅丸の内駅舎の「空中権」購入により+365%の容積率上限をゲットし、その上で周辺の地下空間の整備を頑張ったおかげで行政からさらに+95%の容積率上限をゲット、結果として当初の上限1300% + 空中権購入分365% + 特定街区制度利用分95% = 1760%の容積率上限を手に入れたということになります

特定街区の制度は、丸の内に限らず適用できるので、超高層ビルを建築するために全国的によく使われるテクニックの1つです!

重要文化財を保存・復元すればその分だけ容積率上限がアップ!


↑明治生命館(手前)と明治安田生命ビル(奥)

次は「明治安田生命ビル」の事例です。このビルができたのは2004年。当時の丸の内エリアの容積率上限は1000%でしたが、特定街区制度によりプラス500%も緩和されました

明治安田生命ビルの容積率上限が1500%に緩和されているのは、特定街区制度の中でも東京都が用意している「重要文化財特別型特定街区制度」を活用しているからです。

これは、ある街区において、そこにある重要文化財の建築物を保存・復元する場合は、同じ街区の容積率上限をその建築物の保存・復元床面積分だけアップできる制度です

明治安田生命ビルの敷地には、1934年竣工の「明治生命館」があります。明治生命館は、戦後にGHQに接収されてGHQの本拠地として使われていたことで有名な歴史的建造物で、重要文化財に指定されています

明治安田生命ビルの計画にあたっては、同じ敷地にある重文建築である明治生命館の保存を条件にして、明治安田生命の保存床面積分の容積をゲット。結果として、前述の通り当初の上限を大きく超える1500%の容積率上限となりました。

重要文化財特別型特定街区制度の適用例は本件を含めて2つあり、もう1つは中央区の室町地区(日本橋の隣)にある「日本橋三井タワー」のプロジェクトです。これは同じ敷地にある重文建築「三井本館」の保存を条件にして容積率を718%→1218%にアップしました。


↑三井本館(手前)と日本橋三井タワー(奥)

というか、この制度自体が、三井本館を所有する三井不動産の働きかけによって制定された経緯があります。

参考:https://www.sanko-e.co.jp/read/read_memory_mitsui-honkan-nihonbashi_01.pdf

おわり

このように、大都会に超高層ビルを建てるにあたって、各不動産会社は建築基準法などの法律が定める基準を超えるために行政が用意した(もしくは用意させた)制度をフル活用していることが判りました。

超高層ビルを建てるプロジェクトは絶対数が少なく、特定街区制度を活かした個別対応の事例ばかりなのを見るに、こうした開発計画の実施においてはデベロッパーと行政の交渉がものを言うのかな(そして財閥系などの大手デベロッパーはその辺りが強いのかなあ)なんて想像しちゃいました。

もし都会ですごく大きくて高いビルを見たときは、その裏側でどういう制度が活用され、行政とどういう交渉が進められたのかに思いを馳せてみると面白いかもしれません!

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