丸の内に超高層ビルが並ぶのは東京駅が3階建てだから!?丸の内摩天楼の裏側(前編)

こんにちは、おぐえもん(@oguemon_com)です。

私が初めて東京に訪れたとき、最も驚き感動したのは東京駅前の景観でした。100年以上の歴史を誇る巨大レンガ建築・丸の内駅舎の前には、皇居へ続く石畳の大通りが直線状に続き、それを挟むように超高層ビルが立ち並ぶ様は、私が京都や大阪で見てきた都市景観を遥かに凌駕する都会的な洗練さを帯びていました。

東京駅前の丸の内エリアの特徴の1つに、超高層ビルが所狭しと並んでいる点があります。これが東京の都会らしさを演出しているのですが、これって実は都会ならば日本中どこでもできるわけではなく、普通ならば法律の規制により不可能な所業です。

それなのに、丸の内エリアはなぜ超高層ビルをバンバン建てることができたのか。それには、日本で丸の内周辺だけに適用されているあるルールと、東京駅の駅舎建築の特徴がカギを握っています。

今回は、超高層ビル建設の法的な壁の一つである「容積率」のカラクリと、日本一の容積率を叩き出すために丸の内エリアの超高層ビルが講じてきた面白い取り組みを紹介します。

建物のサイズを表す基本指標「建蔽率」と「容積率」

本題に入る前に、不動産の基本知識を頭に入れておく必要があります。

日本の国土に建物を建てるとき、当然好き勝手なものを建てるわけにはいかず、建築基準法などの法律で建築できる建物に制限を設けています。

この制限は色々ありますが、「建物の大きさ」という観点でいうと、「建蔽率」と「容積率」という2つの指標の制限が最も基本的なものです。

建蔽率

ざっくり言うと、建蔽率とは、ある敷地面積に対して、敷地上の建物が占めている面積(建築面積)の割合です。

例えば、敷地全部を建物で埋めたら建蔽率は100%です。敷地の半分を庭などにして、残り半分に建物を建てたら50%です。

建蔽率に制限があるのは、もしみんなが敷地をフルに使って建物を建ててギチギチな街並みになったら、息苦しい環境になりますし、火事が起きたときに延焼しまくるからです。

建蔽率はエリアごとに定められていて、商業地域の多くは80%です。そして、建蔽率の制限は一定の条件を満たすと緩和されます。例えば、その商業地域が防火地域内で、そこに耐火建築物を建てるときは、建蔽率100%でもOKになります!

千代田区が提供するサイトをみると、丸の内エリアは建蔽率上限が80%の商業地域で、かつ防火地域でもあるので、耐火建築物を建てるなら建蔽率100%でもOKになります!つまり、丸の内では高層かはさておき所狭しとビルを建てることができます


出典:https://chiyoda-city.maps.arcgis.com/home/

容積率

ざっくり言うと、容積率とは、ある敷地の面積に対する、敷地上の建物の延べ床面積の割合です。

例えば、100㎡の土地に、1フロア80㎡の面積を持つ5階建ての建物がある場合、その容積率は、「80㎡×5階÷100㎡ = 400%」になります。延べ床面積の算出ルールは複雑なので、実際はもっといろんな事情を考慮する必要があります。

容積率の大きさは、敷地面積に対するキャパと捉えることもできます。容積率に制限があるのは、例えばその土地の交通周りが貧弱なのに大収容の建物がバンバン建つと、街が人で溢れてパンクしてしまうおそれがあるからです。

先ほどの画像をもう一度見ると、丸の内エリアの容積率上限は1300%です。閑静な住宅街で上限200%程度なので、既にめっちゃデカいです。

つまり、敷地をフルに使った場合、単純計算で13階建ての建築が上限になります。とはいえ、実際は吹き抜けがあったり上層に行くほど床面積が小さくなったり、延べ床面積の計算上の各種特例があるのでもっと階数を増やせます。

丸の内の高層ビルは本当に容積率1300%に収まってるの?

13階建てってそこら辺のマンションやホテルの階数であり、丸の内の高層ビルがどれも13階程度しかないとは思えません。

試しに三菱地所のHPで物件検索をしたら、出るわ出るわ、13階どころか30階建て以上の丸の内建築の数々が!(リンク先は出典)

名称竣工フロア
新丸の内ビルディング2007年地上38F・地下4F
JPタワー2012年地上38F・地下4F
丸の内パークビルディング2009年地上34F・地下4F
明治安田生命ビル2004年地上30F・地下4F
丸の内ビルディング2002年地上37F・地下4F
東京ビルディング2005年地上33F・地下4F
三菱UFJ信託銀行本店ビル2003年地上30F・地下4F

もちろん、フロア数が大きいから容積率が高いとは限りません。敷地を広く確保して建物周辺に広い空き地を作れば、容積率計算の分母が大きくなって容積率が下がるからです。

例えば、かつて日本一の高さを誇るビルだった横浜ランドマークタワーは、広大な敷地面積を持つので、地上70階建てながらも容積率が単純計算で1000%余りに留まっています。

じゃあ、丸の内の場合はどうなのかと言うと、そういうわけでもなく、多くのビルの容積率が1300%以上あります(リンク先は出典)。

名称容積率
新丸の内ビルディング1755.90%
JPタワー1629.99%
丸の内パークビルディング1563.11%
明治安田生命ビル1488.54%
丸の内ビルディング1436.23%
東京ビルディング不明
三菱UFJ信託銀行本店ビル1231.82%

特に、新丸の内ビルディングの容積率は1700%を超えており、日本一の容積率を誇ります


↑丸の内ビルディング(左)と新丸の内ビルディング(右)

なぜ、容積率の規定上限である1300%を上回る建物が跋扈しているのか。これには容積率上限のカラクリが絡んでいます。

丸の内の超高層ビルが規定以上の容積率を得た方法

本来の上限である1300%を上回る容積率を持つこれらのビルですが、当然ながら違法建築というわけではありません。

なぜなら、1300%を上回る容積率上限が個別に設定されているからです!

名称容積率上限
新丸の内ビルディング1755.90%1760%
JPタワー1629.99%1630%
丸の内パークビルディング1563.11%1564.73%
明治安田生命ビル1488.54%1500%
丸の内ビルディング1436.23%1437%

この表にあるビルのうち、「明治安田生命ビル」「丸の内ビルディング」以外の3つのビルには同じカラクリが用いられています。

それが、「特例容積率適用地区」というものです。

「特例容積率適用地区」とは

特例容積率適用地区とは、簡単に言うと、あるエリアの中にある複数の敷地間で、使っていない容積を他の敷地に譲渡できる地区です。

例えば、容積率上限が1300%の地区なのに実際には1000%しか使ってない敷地Aが、余った300%分の容積を敷地Bに譲渡して、敷地Bの容積率上限をその分アップできるような仕組みです。

この制度は20年以上前からあるのですが、2024年現在適用されているのは丸の内周辺の地域(大手町・丸の内・有楽町地区)しかありません!まさに日本唯一の特例的エリアです。

この制度のキモは、使ってない容積を敷地をまたいだ他の敷地に移せる点。つまり、容積をあまり使ってない土地がエリア内に存在しなければ無意味です。

日本屈指の利便性と価値を誇り、特にビジネス需要が絶大な丸の内エリアでは、限られた土地をマックスまで活用しようと容積率パンパンの建築ばかりが立ち並んでいます。そんな中、誰が容積を持て余しているのでしょうか…?

いるんです。丸の内の中心、東京の玄関口に…!

東京駅は丸の内駅舎が持て余す「空中権」を周辺の摩天楼に売って約500億円を得た

丸の内で容積を持て余していたのは、東京駅の丸の内駅舎が建つ土地でした。


↑新丸の内ビルディング(左)と東京駅丸の内駅舎(右)

丸の内駅舎のある敷地は、容積率が900%に設定されており、単純計算で9階建ての建物が建てられる場所です。しかし、東京駅の丸の内駅舎は3〜4階建てで、なんと700%弱の容積率が余っていたようです

そこで、東京駅の丸の内駅舎を所有するJR東日本は、余った容積の一部を活用する権利(いわゆる「空中権」)を周辺のビルに販売し、結果として、丸の内駅舎の容積率上限が200%ちょっとに減った代わりに、権利を購入したビルの容積率上限が130%〜約400%アップしました。

こうして、新丸の内ビルディングをはじめとするいくつかのビルは、容積率上限が1300%を超える結果になりました。

ちなみにJR東日本は、「空中権」の販売を通じて約500億円を調達しました。そして、そのお金を用いて丸の内駅舎の復原工事を実施、空襲による火災以来長らく2階建ての簡易的な造りだった丸の内駅舎は、2012年に明治時代の創建時と同じ豪華な佇まいに戻り、今に至ります。

「空中権」の力を借りても、まだ容積率が足りてなくない…?

新丸の内ビルディングは、東京駅丸の内駅舎から「空中権」を得て、容積率が365%もアップしました。しかし、それでも1300% + 365% = 1665%で、驚異の1700%にはまだ及びません。

また、丸の内ビルディングは前述の通り容積率上限が1437%に緩和されていますが、丸の内ビルディングは東京駅から空中権を購入していません。

これらのビルはどのようにして、容積率の上限をアップさせたのでしょうか。

次の記事に続きます!

重要文化財を守れば隣に超デカいビルを建てられる!?丸の内摩天楼の裏側(後編)
重要文化財を守れば隣に超デカいビルを建てられる!?丸の内摩天楼の裏側(後編)
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