こんにちは、おぐえもん(@oguemon_com)です。
前回の記事では、固有値問題を解くための方法について説明しました。今回は、対角和と呼ばれる指標を扱うとともに、固有多項式というものを用いて、その性質を明らかにしていきます!
対角和(トレース)
対角和とは、ある行列の対角成分の総和のことを言います。めっちゃシンプルですね。
正方行列\(A=[a_{ij}]\)の対角成分の総和を、\(A\)の対角和(トレース)と呼び、\(\mathrm{tr} A\)と書きます。
$$\mathrm{tr} A=a_{11}+a_{22}+\ldots+a_{nn}$$
名前を付けるまでも無いようなシンプルな値ですが、あとで固有値との関係が明らかになります。
固有多項式
固有多項式って何?
前回の記事でも軽く触れましたが、固有方程式の左辺(\(|A-\lambda E|\))を固有多項式と呼び、$$\phi(t)=|A-tE|$$と書くことがあります。
また、行列の成分を用いると次のように表すことができます。$$\phi(t) = \left| \begin{array}{cccc} a_{11}-t & a_{12} & \ldots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22}-t & \ldots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \ldots & a_{nn}-t \end{array} \right|$$もちろん、これを展開するとエゲツないことになります笑
固有多項式の係数を求める
固有多項式を展開すると、超大変なことになります。しかし、一部の項の係数ならばなんとか分かりそうな気もします。実は行列式の性質から、「\(t^n\)」「\(t^{n-1}\)」の係数ならば簡単に求められます。
ちなみに、定数項も簡単に導けます。定数項は、\(|A|\)そのものです。(\(t\)を除いて考えた結果です)
対角成分の積だけで係数が分かるワケ
さて、なぜこれらの係数が対角成分同士を掛け合わせた多項式から求められるのか疑問に思った方もいるでしょう。
行列式の定義を思い出していただきたいのですが、行列式ってざっくり言えば「\(n\)個の成分を、行または列の重複なく選んで掛け合わせた積を、全ての選び方で網羅的に集めて(符号を適宜加えた上で)足し合わせたもの」でした。ここで、「行または列の重複なく選んで掛け合わせた積」の中に\(t^n\)や\(t^{n-1}\)が含まれるような選び方って、全ての対角成分を選ぶ方法以外ありえないんですね(これ以外の選び方で生んだ積は全て\(t^{n-2}\)以下しか持たない)。ですので、\(t^n\)や\(t^{n-1}\)の係数を考える上で対角成分同士の積しか考えていないのです。
対角和と固有値
対角和と固有値の間の関係
さて、固有方程式は固有値を解に持ちます。つまり、\(A\)の固有値を\(\lambda_1\)〜\(\lambda_n\)として、先ほど求めた\(t^n\)の係数に注意することで、固有多項式は次のように表すこともできます。
$$\phi(t)=(-1)^n(t-\lambda_1)(t-\lambda_2)\cdots(t-\lambda_n)$$(\((-1)^n\)によって、\(t^n\)の係数を合わせています)
固有方程式を、「行列の成分を用いた表現」「行列の固有値を用いた表現」の2通りで表すことができるということは、両者の変数の係数を比較することで、成分と固有値の間に一定の関係を見出だすことができそうです。
実際、上の式を展開することで、\(t^{n-1}\)の係数が「\((-1)^{n-1}(\lambda_1+\lambda_2+\ldots+\lambda_n)\)」であることが分かります。これと、先ほど求めた\(t^{n-1}\)の係数を比較することで、次の式が成り立ちます。
この式から、行列\(A\)の対角和と、\(A\)の固有値の和は等しいということが分かります。こういった性質から、対角和(トレース)は「固有和」と呼ばれることもあり、一部の教科書では実際に採用されています。
具体例
毎度おなじみ、2次元の正方行列\(A\)を用いて成立を確かめましょう。$$A=\left( \begin{array}{cc} 5 & 3 \\ 4 & 9 \end{array} \right)$$まず、前回の記事を通じて、\(A\)の固有値は「3」と「11」であることが分かりました。つまり、固有値の総和は、\(3+11=14\)です。次に、\(A\)の対角和を計算しましょう。これも簡単で、\(5+9=14\)です。
うわっ!どっちも「14」で一致した!!これが対角和と固有値の総和が等しいということか〜!
(おまけ)行列式と固有値
行列式と固有値の間の関係
ちなみに、$$\phi(t)=(-1)^n(t-\lambda_1)(t-\lambda_2)\cdots(t-\lambda_n)$$の展開を通じて、固有多項式の定数項が「\(\lambda_1\lambda_2\ldots\lambda_n\)」であることも分かります。これと、さっき求めた定数項との比較から、次の式も成立します。
行列\(A\)の行列式と\(A\)の固有値の積が等しいなんてファンタスティック!
具体例
毎度おなじみ、2次元の正方行列\(A\)を用いて成立を確かめましょう。$$A=\left( \begin{array}{cc} 5 & 3 \\ 4 & 9 \end{array} \right)$$まず、前回の記事を通じて、\(A\)の固有値は「3」と「11」であることが分かりました。つまり、全ての固有値を掛け合わせると、\(3*11=33\)になります。次に、\(A\)の行列式\(|A|\)を計算しましょう。これも簡単で、\(5*9-3*4=45-12=33\)です。
うわっ!どっちも「33」で一致した!!これが行列式と固有値の積が等しいということか〜!
おわり
今回は、行列の対角成分を足し合わせただけの「対角和」というものを取り上げ、固有多項式の展開を通じて固有値との関係について調べました。
次回の記事では、行列の「対角化」というものをしていきます!